最終更新日 2024年9月29日
記事の概要
刑法は犯罪に対するルールを定めた法律です。
刑法の中には、コンピュータを使った犯罪についての規定も含まれています。
情報セキュリティマネジメントにおいて、刑法で定められたコンピュータ犯罪について学ぶことは非常に重要です。
万が一コンピュータ犯罪が発生した場合、組織や個人が法的にどのような責任を負うかを理解しておくことで、
適切な対応ができるようになります。
今回の記事では、コンピュータを使用した犯罪に対する刑法の規定について解説します。
本記事で説明する主な項目は以下の通りです。
- 証拠隠滅罪(電磁的記録に関する証拠隠滅)
- 公正証書原本不実記載罪
- 電子計算機損壊等業務妨害罪
- 私電磁的記録不正作出罪
- 電子計算機使用詐欺罪
- 脅迫罪
- 信用毀損・業務妨害罪
- 威力業務妨害罪
- 不正指令電磁的記録供用罪(ウイルス作成罪)
- 詐欺罪
この記事はこんな人にオススメ!
● コンピュータ犯罪に関する法的リスクを理解し、従業員教育に役立てたい人!
● 情報ITの観点で刑法に抵触する可能性のある行為や対策を学びたい!
● 電子商取引に携わる人など、特定商取引法や詐欺罪、景品表示法の規制を理解し、不正取引や虚偽広告を避ける必要がある人!
● 情報安全確保支援士試験を受験する人!
コンピュータを使った犯罪に関する規定
証拠隠滅罪(電磁的記録に関する証拠隠滅):刑法104条
一言で簡単に言うと
証拠隠滅罪はコンピュータ上のデータを不正に削除したり、改ざんする行為が処罰されるという規定です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、操作や裁判に使用される可能性がある証拠を隠滅、改ざん、偽造、または破壊する行為を罰する規定です。
これには、コンピュータ上のデジタルデータも含まれ、操作や裁判に重要な証拠となるデータを
故意に削除したり改ざんした場合に適用されます。
重要なのは、これが「証拠となる」ものを対象としており、通常のデータ削除とは異なる点です。
身近な事例を紹介すると!
刑法104条の証拠隠滅罪を身近な例で説明すると、以下のようなケースが考えられます。
例えば、あなたが交通事故を目撃し、その事故に関するビデオをスマートフォンで撮影していたとします。そのビデオは、裁判で事故の証拠として使われる可能性があります。しかし、友人に頼まれて、そのビデオを意図的に削除した場合、この行為は証拠隠滅罪に該当する可能性があります。
つまり、裁判や捜査で使われる可能性のある証拠(この場合はビデオデータ)を、故意に削除することで、法律違反になるということです。コンピュータ上のデジタルデータも同じように扱われます。
公正証書原本不実記載罪:刑法159条
一言で簡単に言うと
公正証書原本不実記載罪は、公的な文書に嘘の内容を記載する行為を処罰する罪です。
デジタル技術を使っても、虚偽の情報を公的な書類に記載した場合にこの罪が適用されます。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、公正証書原本不実記載罪は、公正証書や陶器などの「公正な文書」に、
実際には真実ではない虚偽の内容を記載する行為を処罰する規定です。
この罪が適用されるのは、公務員が関与して作成された文書で、例えば、不動産登記や古跡、住民票などの
公的な書類に、事実と異なる情報を記載させた場合に当たります。
この罪の適用対象は、直接虚偽を記載した本人だけでなく、その虚偽記載を依頼したり、 協力したものをも含まれることもあります。
身近な事例を紹介すると!
刑法159条の公正証書原本不実記載罪を身近な例で説明すると、以下のような状況が考えられます。
例えば、あなたが家を購入する際に、購入価格を実際よりも低く見せかけるために、不動産登記の書類に偽の情報を記載してもらった場合です。
この不動産登記は公的な文書であり、虚偽の内容が記載されているため、この行為は公正証書原本不実記載罪に該当します。
もう一つの例としては、戸籍や住民票に関する虚偽の情報を役所に提出して、公的な記録に嘘の情報を載せた場合です。
たとえば、結婚していないのに偽の結婚届を出して戸籍を変更するような行為が、この罪に該当します。
電子計算機損壊等業務妨害罪:刑法161条の2
一言で簡単に言うと
電子計算機損壊等業務妨害罪とは、コンピュータのデータやプログラムを壊したり、改ざんして、
業務を邪魔する行為を罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、電子計算機損壊等業務妨害罪は、コンピュータに保存されているデータやプログラムを損壊、削除、
改ざんしたり、不正に処理を行わせたりすることで、その結果として業務を妨害する行為を処罰する規定です。
この罪が適用されるのは例えば以下のようなケースです。
- コンピュータウイルスを使ってシステムを破壊し、企業や組織の業務を停止させる。
- データを不正に改ざんして業務に支障をきたす。
- プログラムに不正な指令を与え、業務の遂行に重大な影響を与える
この罪のポイントは、業務が実際に妨害されることです。単にデータやプログラムを壊すだけでなく、 その結果として業務が正常鬼進まなくなる場合に、この罪が成立します。
身近な事例を紹介すると!
刑法161条の2の電子計算機損壊等業務妨害罪を身近な例で説明すると、次のような状況が考えられます。
例えば、あなたが会社で使っているパソコンのシステムに、意図的にウイルスを仕込んだり、プログラムを改ざんした結果、会社全体の業務が止まってしまった場合です。
この行為は、コンピュータのシステムを損壊したり、正常に動作しないように改変することで業務を妨害しているため、この罪に該当します。
もう一つの例として、飲食店の予約システムに不正にアクセスして予約データを削除し、業務に混乱を引き起こす行為が考えられます。
このように、コンピュータを使って業務に支障を与える行為がこの罪にあたります。
私電磁的記録不正作出罪:刑法166条
一言で簡単に言うと
私電磁的記録不正作出罪とは、他人のコンピュータやプログラムを不正に作成する行為を処罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、私電磁的記録不正作出罪とは他人の業務や取引などに関する電磁的記録(データやプログラム)を、正当な権限がないにもかかわらず不正に作成したり、改ざんする行為を処罰する規定です。
この罪の対象となるのは「私的」な電磁的記録、つまり公務に関係しない企業や個人の業務、取引に関連する記録です。
具体的には以下のケースが該当します。
- 他人の会社の取引記録や会計データを不正に作成する。
- 他人の銀行口座のデータを改ざんして、虚偽の取引や振り込みを行わせる。
この罪が成立するためには、正当な権限がない状態で、他人の電磁的記録を「作成」または「改変」することが重要です。
身近な事例を紹介すると!
刑法166条の私電磁的記録不正作出罪を身近な例で紹介すると、次のようなケースが考えられます。
例えば、あなたが友人のクレジットカード情報を不正に入手し、その情報を使ってオンラインショッピングサイトに虚偽の購入記録を作成する場合。友人の本来の許可を得ずに、デジタル上で不正な取引記録を作成する行為は、この罪に該当します。
もう一つの例として、他人の会社の経理システムに不正にアクセスして、取引データや支出記録を改ざんし、偽のデータを作成してしまう場合も、この罪に当たります。
つまり、他人のデジタルデータや記録を無断で不正に作り出したり、改ざんすることがこの罪の対象です。
電子計算機使用詐欺罪:刑法168条の2
一言で簡単に言うと
電子計算機使用詐欺罪は、コンピュータを使って不正にお金や利益を得いる行為を処罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、電子計算機使用詐欺罪は、コンピュータや電磁的記録を利用して、不正な手段により、財産的な利益を得る行為を処罰する規定です。
この罪は、実際の物理的な詐欺行為ではなく、データの操作や不正なプログラムの使用によって詐欺が成立します。
具体的には以下のようなケースが該当します。
- ATMやネットバンキングで不正なプログラムを使って他人の口座からお金を引き出す。
- ショッピングサイトで虚偽にデータを入力し、代金を支払わずに商品を入手する。
この罪は、コンピュータやデジタルデータを使った詐欺であり、詐欺罪と同様に相手を騙し、財産的な利益を不正に得ることがポイントです。
身近な事例を紹介すると!
刑法168条の2の電子計算機使用詐欺罪を身近な例で説明すると、次のような状況が考えられます。
例えば、あなたがオンラインショッピングサイトで、実際には持っていないクレジットカード情報を不正に使用して、商品を購入し、その支払いを他人に負担させる行為。この場合、他人のデータを利用して不正に商品という利益を得ているため、この罪に該当します。
また、例えば銀行のオンラインシステムに不正アクセスし、他人の口座から自分の口座にお金を振り込むような行為も、この罪に該当します。
コンピュータを使って正当な権限なく利益を得ようとする行為が、この罪の典型的な例です。
脅迫罪:刑法222条
一言で簡単に言うと
情報セキュリティにおいて、脅迫罪は、コンピュータやインターネットを使って相手を怖がらせる行為を処罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
厳密にいうと、脅迫罪は、相手に危害を加ええることを告知して、恐怖を感じさせる行為を処罰する規定です。
脅迫の内容は、生命、身体、自由、名誉、財産などに関するものであり、脅迫の手段してインターネットや
コンピュータを使用した場合もこの罪に該当します。
この罪が成立するためには、相手が恐怖を感じる程度の脅迫である必要があります。例えば、SNSやメールを通じて「命を狙う」や「家族に危害を加える」などの内容を送信する行為がこの罪に該当します。
身近な事例を紹介すると!
刑法222条の脅迫罪を身近な例で説明すると、次のようなケースが考えられます。
例えば、SNSやメールを使って「明日お前の家を燃やす」とか「家族に危害を加える」などといった脅迫メッセージを送る行為です。このように相手を恐怖させる内容をインターネットやメッセージアプリを通じて送った場合、脅迫罪に該当します。
もう一つの例として、ゲーム内で他のプレイヤーに「現実で会って危害を加える」と脅すメッセージを送る行為も、この罪に当たる可能性があります。
信用毀損・業務妨害罪:刑法233条
一言で簡単に言うと
信用毀損・業務妨害罪は、インターネットなどで嘘の情報を流して、企業や個人の信用を傷つけたり、
業務を邪魔する行為を処罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、信用毀損・業務妨害罪は、虚偽の事実を広めることによって、他人の信用を傷つけたり、業務を妨害する行為を処罰する規定です。
この「信用毀損」は、企業や個人の社会的評価を低下させる行為が対象であり、
業務妨害は、その結果として業務の円滑な遂行が妨げられる場合に適用されます。
この罪が成立するためには、意図的にうその情報を流布することが要件です。例えば、インターネット上で虚偽の内容を広めて企業の評判を落とし、それによって業務が正常に行えなくなる場合に該当します。また、物理的な妨害だけではなく、ネット上の書き込みやデマによる信用の損失も含まれます。
身近な事例を紹介すると!
刑法233条の信用毀損・業務妨害罪を身近な例で説明すると、次のような状況が考えられます。
例えば、あなたがSNSで、実際には何も問題がないレストランに対して「この店は食中毒が出た」と嘘のレビューを投稿したとします。その結果、そのレストランの評判が悪化し、客足が減少して業務が成り立たなくなる場合、この行為が信用毀損・業務妨害罪に該当します。
もう一つの例として、インターネット掲示板で特定の会社について「不正な取引をしている」と虚偽の情報を広め、その会社の取引先から契約を打ち切られるなどの業務に支障が出た場合も、この罪に当たります。
威力業務妨害罪:刑法234条
一言で簡単に言うと
威力業務妨害罪は簡単に言うと、強引な手段や力を使って、他人の仕事を妨げる行為を処罰する罪です。
例えば、DDoS攻撃のように、コンピュータシステムを強制的に停止させて業務を邪魔する行為が該当します。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、威力業務妨害罪は、「威力」という力や圧力を使って、他人の業務の円滑な遂行を妨害する行為を処罰する規定です。
この「威力」には、物理的な力だけではなく、相手に恐怖や圧力を感じさせる手段も含まれます。
具体的には以下のような行為が該当します。
- 物理的に工場の店舗の入り口を塞ぐことで業務を妨害する。
- DDoS攻撃などでインターネット上のサービスを停止させ、企業の業務を妨害する。
重要なのは、「威力」を使って相手の業務を実際に妨害することです。この「威力」には直接的な暴力だけではなく、技術的な手段や圧力的な行為も含まれます。
身近な事例を紹介すると!
刑法234条の威力業務妨害罪を身近な例で説明すると、次のようなケースが考えられます。
例えば、あなたが友人と一緒にカフェの前で大声を出したり、嫌がらせ行為を続けてお店の入り口を塞ぎ、客が入店できないようにした結果、カフェの営業が妨害される場合です。この行為は、物理的な圧力や威力を使って業務を妨害しているため、この罪に該当します。
また、例えば、特定の会社のウェブサイトに対してDDoS攻撃を仕掛け、その会社のオンラインサービスを利用不能にして業務を妨げた場合も、この罪に該当します。インターネット上で技術的な手段を使って業務を妨害することも、「威力」による業務妨害にあたります。
不正指令電磁的記録供用罪(ウイルス作成罪):刑法234条の2
一言で簡単に言うと
不正指令電磁的記録強要罪(ウイルス作成罪)は、コンピュータウイルスを作ったり、広めたりする行為を処罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、不正指令電磁的記録供用罪(ウイルス作成罪)とは、不正な指令を含む電磁的記録(コンピュータウイルスなど)を作成し、または提供、共用、取得する行為を処罰する規定です。
この不正指令電磁的記録には、他人のコンピュータに被害を与える意図を持ったプログラムやデータが含まれます。
この罪は以下の行為に該当します。
- コンピュータウイルスや悪意のあるプログラムを作成する。
- 他人にそのウイルスやプログラムを広める、もしくは提供する。
- 他人からそのウイルスを取得して使用する。
この法律の目的は、不正な指令によって他人のコンピュータやシステムに被害を与える行為を未然に防ぐことにあります。
身近な事例を紹介すると!
刑法234条の2の不正指令電磁的記録供用罪(ウイルス作成罪)を身近な例で説明すると、次のようなケースが考えられます。
例えば、あなたがパソコンで悪意のあるプログラム(コンピュータウイルス)を作成し、そのウイルスを友人にメールで送り、「このプログラムを使うと相手のパソコンを壊せる」と教えた場合です。この行為は、ウイルスを作成して他人に広める行為にあたるため、この罪に該当します。
また、たとえば、インターネットからダウンロードしたウイルスを他人のパソコンにインストールさせて、そのコンピュータに損害を与えた場合も、この罪にあたります。
詐欺罪:刑法246条
一言で簡単に言うと
詐欺罪は、情報技術の観点では、コンピュータを使って嘘をつき、他人からお金や利益をだまし取る行為を処罰する罪です。
もう少し詳しく言うと
もう少し詳しく言うと、詐欺罪は、他人を欺いて錯誤に陥らせ、結果として財産的な利益を不正に取得する行為を処罰する規定です。
この「欺く」という行為は、虚偽の事実を伝えたり、重要な事実を隠したりして、相手に誤解を与え、
それによって財産や財産的利益を得ることを指します。
詐欺罪が成立するためには、以下の要素が必要です。
- 他人を欺く行為(虚偽の説明や情報提供、事実の隠蔽など)
- 相手がその嘘に基づいて誤解し、財産的な行為をすること(お金を渡す、契約を結ぶなど)
- その結果として加害者が財産的な利益を得ること
身近な事例を紹介すると!
刑法246条の詐欺罪を身近な例で説明すると、次のような状況が考えられます。
例えば、あなたがネットオークションサイトで、高価な商品を販売すると偽って出品し、実際にはその商品を持っていないにもかかわらず、購入者から代金を振り込ませる行為。この場合、嘘をついて相手にお金を振り込ませているので、詐欺罪に該当します。
もう一つの例として、フィッシング詐欺が考えられます。例えば、銀行を装った偽のメールを送り、相手にログイン情報を入力させて、その情報を使って相手の口座からお金を盗む行為です。これも他人を欺いて財産を不正に得ているため、詐欺罪となります。
ゴリタン
インフラエンジニアとして、ネットワークとサーバーの運用・保守・構築・設計に幅広く携わり、
現在は大規模政府公共データの移行プロジェクトを担当。
CCNPやLPICレベル3、AWSセキュリティスペシャリストなどの資格を保有しています。